2013年8月27日火曜日

2013年6月29日「こころの健康社会を目指す」発行

2013年6月29日、やどかり出版様より「こころの健康社会を目指す」が発行されました。

記念すべき本書の「はじめに」と「おわりに」を掲載いたしますので、是非ともご覧いただければと思います。

本書をご希望の方は、事務局までご連絡ください。


◆ 「はじめに」
こころの健康政策構想会議、その後の構想実現会議は、わが国の精神保健・医療改革の歩みの中に、行く手を照らす灯台として、実現した暁には実現を導いた先導者として、鮮やかに記録される提言を投じました。いま、一時的な政治状況の変化のために提言の実現は頓挫したかにみえます。しかし、私たちの行った提言は、わが国の精神保健・医療の発展を妨げている最も大きな矛盾の解決の中にこそ、そのニーズに応えるための実現の道筋があることを示したものです。そして、精神保健や医療がこの国の人々のためにあり、国民や当事者・家族のニーズにもとづくものとなっていくことを目指しています。したがって、この最も大きな矛盾を解決する道は、前に進もうとすれば必ず通らなければならないものなのです。
 最も大きな矛盾とは、精神疾患をもつ人々を身体疾患をもつ人々から区別して、医療や処遇を劣悪な条件のもとにおいてきたことです。ハンセン病をもつ人も同じ差別的状況におかれてきました。どちらも社会からの隔離が政策の基本にありました。
 しかし、対象となる人たちの一部、さらにその一時的状態を除いては、外来医療の対象であるという国際的な精神科医療の動向となっています。にもかかわらず、日本では処遇や医療の中心を入院におき、精神疾患をもつ人々が地域で生活していくことを基本としてこなかったのです。その結果、地域での生活を支える精神保健や福祉の予算は極めて小さく、関係予算の4分の3をも入院医療費に費やしてきました。しかも精神病者監護法の考え方を引き継ぎ、入院の多数を占める医療保護入院の責任を保護者(家族)に負わせてきたのです。そして、保健所機能の弱体化など精神保健は崩壊寸前ともいっていい状態になっています。

提言は、精神疾患をもつ人々の医療や処遇を身体疾患をもつ人々の一般医療や処遇と同じにし、かつ全体の医療や処遇の水準を引き上げることを提案しています。
 まずは、入院医療中心で、地域医療が弱く、精神保健が崩壊寸前という状態から逆転させることです。そして、精神保健を充実させ、病んでからではなく病まないように住民全体の健康を増進させていきます。さらに、地域医療を充実させ、医療が国民の生活している場に早く届くようにすることが必要です。それでも疾患をもつにいたった場合には、地域に責任のもつ専門病院の充実した医療が受けられる仕組みに転換していく道を描きました。将来的には健康の増進や医療が早く届くことによって、入院の頻度や期間も減少し、疾患の生活機能への影響は減り、医療費や福祉費の軽減にもつながるでしょう。

 この当たり前の改革の道が平坦に早く進まないことは、構想会議・構想実現会議の3年間の取り組みで経験してきました。しかし、当事者・家族が中心となって専門職の人々と共同して取り組んできた提言の実現を求める運動は、361の地方議会で意見書が採択され、1億人近い住民の支持があることを物語っています。この事実が、この当たり前の改革の実現可能性を示しています。一時の困難にあきらめずに、歴史の流れを進めていきたいと思います。

2013年6月3日




岡崎 祐士
(都立松沢病院名誉院長・こころの健康構想実現会議共同代表)

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